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(読了)読書感想文/世にも奇妙な人体実験の歴史

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人体実験、非人道的な、背徳感のある言葉の響き、、、
でも、なぜだか心惹かれちゃうんですよね、、、というわけで購入。

 

 とりあえずの感想:長い!でもおもしろい!最後の解説がすばらしい!

 

 概要

本書の前半は解剖から始まり薬物、細菌、放射線等、医療機器といった
医療関係における人体実験の歴史紹介となっていて、
現在の「治験」に通ずる部分も多く、おもしろいうえに勉強にもなりました。

 

後半はどちらかというとサバイバル・冒険系
(高圧、低圧、水中、低温、深海、超高高度、サメ(!))の
内容になるので、あんまり人体実験感はありません。
そもそも原題が「Smiking Ears and Screaming Teeth」なので
人体実験とあるのは邦題の都合だったり。
こちらも、おもしろかったです。

 

かなりユーモアあふれる書き口なので、
登場人物の言動(特に感情の部分)について、多少脚色されている感は
否めません。

ただ、危険な人体実験描写をこれでもか、と集めているので、
多少のユーモアがないと読者的にしんどいですし、
これはこれでよいのかも。

本書のラスト10%は怒涛の引用文献オンパレードです。
よく調べたなこんなん、、、

もし現代社会でこのような実験をやったら、
(囚人や孤児を使った実験はもちろん、
たとえ実験台が研究者自身であったとしても)
それは称賛されるどころか批難轟々でしょう。
それが現代の倫理であり、科学であり、そこに議論の余地はありません。

一方で、そういう歴史の積み重ねが、科学の発展、実験環境の改善につながり、
私たちの生活を豊かにし、守っていることにも、気づかされる、
すばらしい本でした。

 

おまけもすばらしい

 

実は本書にはすばらしいおまけがついています。

解説 特別集中講義「人体実験学持論」へようこそ/仲野 徹(大阪大学大学院教授)
では、現在の臨床研究、臨床試験の倫理に対する考え方にきちんと触れつつ
人体実験の歴史、社会的背景と、その必要性を俯瞰して説明しています。
人体実験は決して過去の話ではなく、私達ひとりひとりの「自己選択権」に
関わっているのだと。

 本体もすばらしい、おまけもすばらしい、
もう読むしかない!

 

人体実験が行われた背景

なぜ人体実験をしたのか?を本書をもとに個人的に考えてみました。

 

・倫理的なハードルの低さ
囚人、孤児、貧しい人など、実験に使ってもいいじゃんという風潮 、
人権意識の低さなどがありそうです。

 

・実験志願者確保の難しさ

特に「自分自身で」実験を行った科学者に多いパターンです

毒物の接種、細菌やウイルスの接種など、被験者に利益が一ミリもない実験は、
自分自身や身内が被験者になるしかなかったでしょうね。

 

・名誉、愛国心

戦時中は特に。

 

動物実験の限界

どれくらいの一酸化炭素濃度で人体にどのような自覚症状がでるのか?
を知りたくても、動物では症状を言葉にあらわせません。
「空気中に〇%の一酸化炭素が含まれると〇分で頭痛があらわれる」
という情報を得るには、、、、人体実験するしかないように思えます。


また、現在では遺伝子組み換えなどで特定の疾患をマウスに引き起こすことも
可能になりましたが、数10年前は、
「人間でしか見つかっていない病気は人間で実験するしかなかった」
という事情もあったようです。

 

・好奇心

人体実験を行ううえで、たぶん、一番強固な動機だったのでは。
本書を読むと、そう思わざるを得ないエピソードがわんさかでてきます。
好奇心やばい。

 

 

 エピソードを少しだけご紹介

・冷静すぎる自己実験者

本書の最初の章に登場するジョン・ハンターさん。

淋病が進行すると梅毒になるという仮説を立証したい(冷静)

これらに「確実に感染していない」対象者を見つけ、わざと感染させ
観察する必要がある(冷静)

条件に当てはまる対象者は自分しかいない。(超冷静)

うん、冷静すぎる。
たしかに合理的な思考なんですけどね。
当時、イギリスでは淋病と梅毒が蔓延しすぎていて、未罹患者を
見つけるのが難しかった、という事情もあるかもしれません。
にしても冷静すぎる。

この実験、実はある意味失敗してしまうのですが、
そのあたりはぜひ本書でご確認を。

 

なお、同じようなことをピロリ菌でやってノーベル賞を受賞した
バリー・マーシャル氏のエピソードも、もちろん載せられています。
ご本人いわく
「(この実験に)同意できるほど十分な説明を受けている人間は
私しかいなかった」
と。たしかに。

 

・胎児の発達の段階を明らかにする。

1700年代のこと、現代のようなエコーがなかった時代、
赤ちゃんがおなかの中でどのように育つのか知るためには
「中を見てみる」しかなかったはず。

本書ではあまりページは割かれていませんが、
ウィリアム・ハンター」という人物が、
胎児の発達の全段階を明らかにしようと思い立ちました。

といっても、胎児はもちろん、胎盤、子宮、臍帯といった構造を、
胎児の発達段階ごとに調べるためには
、、、たくさんの妊婦さんのご遺体が必要だったはず。
実際に「研究の完了には20年以上かかった」とのこと。


今では子供向けの図鑑にだって
「赤ちゃんはこんな風におなかの中で育つんだよ!」
と書かれていますが、これを明らかにするのには
めちゃめちゃな苦労があったはずです。

 

仮に現代で「残念ながら母子ともに助かりませんでした、
ところで
医学の発展のためにご遺体を解剖してよいですか?」と聞かれて、
何人のご遺族がOKするでしょうか。

 

というわけで、時には非合法なやり方で集められた遺体もあったでしょうね。
そういう「ドロドロした歴史」の先に現代の医学があるんだなあ、と
感慨深いです。

 

おしまい。